自転車市場において、ロードバイクが特に注目され、メディアでの特集も多い現状には、単なるブーム以上の深い経済的、戦略的要因が存在します。メーカー、販売店、メディア関係者への取材に基づき、ロードバイク偏重の背景、2025年の変化、そして消費者が知っておくべき情報を冷静に分析します。

シマノの影響力|業界を動かす巨人の戦略

シマノは、自転車業界において圧倒的な影響力を持つコンポーネントメーカーです。
スポーツ自転車向け部品の世界シェアは約85%、変速機付き自転車に限っても約7割を占めています。
その高い技術力は業界内で広く認められており、製品ラインナップを見ると、特にロードバイク用のコンポーネントが充実していることがわかります。
このロードバイク用コンポーネントの充実こそが、自転車市場を力強く支える重要な要素となっています。
販売店の戦略と利益構造

ロードバイクは、一般的にクロスバイクよりも高価格で販売されることが多いです。例えば、平均的なロードバイクの価格が20万円以上であるのに対しクロスバイクは10万円未満で販売されることが多いです。この価格差が、業界にとってロードバイクを優先する理由の一つでもあります。
ロードバイク購入後の追加支出項目
【ロードバイク購入後の追加支出項目(業界平均)】 | |
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アイテム | ロードバイク購入者の平均支出 |
ヘルメット | 15,000〜25,000円 |
シューズ | 15,000〜30,000円 |
ウェア上下 | 20,000〜40,000円 |
サイクルコンピューター | 10,000〜30,000円 |
ライト・アクセサリー | 10,000〜20,000円 |
合計平均支出 | 約70,000〜145,000円 |
*自転車専門店への取材をもとに作成
自転車販売店にとって、ロードバイクの販売は大きな利益をもたらします。ロードバイクは、購入後もさまざまなアクセサリーやパーツ(単価の高いホイールなど)の販売につながりやすく、長期的に見ても収益性が高いです。
広告収入とコンテンツの密接な関係

自転車専門メディアは、その性質上、どうしてもロードバイク関連のコンテンツに偏りがちです。
その背景には、ロードバイク関連製品を手がける大手メーカーからの広告出稿が多いという事情があります。
広告主であるメーカーの意向が、メディアの編集方針に影響を与えるのは、ある意味避けられない現実と言えるでしょう。
しかし、そんな自転車専門誌の世界にも、変化の兆しが見え始めています。
長年業界を牽引してきた老舗雑誌「バイシクルクラブ」が近年、大胆な誌面刷新を敢行し、ライフスタイルに寄り添った企画を積極的に展開することで、新たな読者層を開拓し、大きな話題を呼びました。
これは、従来の競技志向から脱却し、より幅広い層に自転車の魅力を伝えようとする、業界全体の意識改革の表れとも言えます。
トップダウンが生み出す競技至上主義

日本国内の自転車競技者数は約2.5万人とされています。
これに対し、定期的に自転車に乗ると推定される人口は約500万人とされています。
このことから、自転車競技に参加している人は全体の約0.5%に過ぎず、非常に小さな割合であることがわかります。
しかし、自転車メディアの多くは、この少数の競技志向サイクリストにターゲットを絞った内容が多く見受けられます。

売るだけではダメ|自転車店店長が訴える『顧客視点』への転換

「競技志向が生むエリート主義」という言葉で片付けるには、あまりに根深い問題が自転車業界には存在します。
大手自転車店に勤務する店長に、現場の実情を語っていただきました。
大きな企業の意向って、やっぱり店舗の打ち出し方や見せ方、売り方に直結してきます。
例えば、業界が推しているモデルやコンポーネントがあると、それを前面に出すように指示が来ることもあります。売れている時はそれでいいんですが、在庫を抱え始めて動きが鈍くなると、どうしても大幅な値下げをしてでも販売しないといけないんです」と店長は語ります。
「しかし、単にモノを売るだけではなく、物価や嗜好品が高騰する中で、購入後の楽しさや満足感をどう伝えるかも重要です。手に入れた後の楽しみやカスタマイズの可能性をお客様に想像してもらうことが、今後の販売戦略として欠かせません。
ロードバイクだけに限らず、お客様のニーズに合った提案やご案内の仕方は、個人や店舗レベルでの工夫はもちろん、業界全体としても変化していかねばならないと感じています。」
このように、店長は業界全体のトレンドに従うだけでなく、顧客の多様なニーズに応える柔軟な対応の必要性を強調していました。
ロードバイクファースト?業界関係者との会話から見えた真実
とある打ち合わせの際に、クロスバイクは…あまりやりたくないと言う大手企業本音を聞いて、広告の予算含めて視野に入れていないと言うことを知りました。スポーツ自転車の裾野を一般的に広げたいのではなく、ロードバイクを世の中に広めたいと言うのが明確でした。また、大手メディアの編集長も、競技勢が増えれば人口も増える=ロードバイクが増えると言うことで、業界全体で裾野を広めたいのではなく、やはりロードバイク競技を広めたいと言うことだと実感しました。
見逃される大多数のニーズ

内閣府政府広報室「国民アンケート調査」によれば「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によれば、自転車利用者の主な移動目的別の利用割合をみると、全体の7割以上が買い物目的で自転車を利用しているほか、レジャー・健康づくりでは約3割、通勤が2割強であり、これらの利用が多くみられる。
また、利用頻度をみると利用割合の高い買い物、通勤、レジャー・健康づくりの割合が高く、これらの利用が特に盛んであるといえる。-参照:内閣府政府広報室「国民アンケート調査」-
多くの人が自転車に求めているのは、レースでの勝利や記録更新といった競技的な目標ではなく、日常生活を快適にする移動手段、健康維持のための適度な運動、あるいは休日に気軽に楽しめるレジャーとしての価値が求められている。
しかし、業界からの情報発信は、依然としてロードバイクの性能向上や競技テクニックに関する内容が中心であり、一般ユーザーのニーズとの間に明らかなミスマッチが生じています。
この「ロードバイク至上主義」とも呼べる偏りは、多様なニーズに応える自転車文化の発展を阻害し、結果として市場全体の潜在的な成長機会を逃している可能性があります。より幅広い層のサイクリストに向けた情報提供や製品開発が、業界の持続的な発展には不可欠とも言えるでしょう。
ロードバイク「だけ」じゃない!自転車の可能性

「自転車に乗るならロードバイク一択」そう思っていませんか?確かにロードバイクは、その走行性能やスタイリッシュなデザインで多くの人を魅了してきました。しかし、自転車の世界はロードバイクだけではありません。
【最新トレンド】2025年注目の自転車カテゴリ
カテゴリ | 特徴 |
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クロスバイク | 軽量なアルミフレーム、直進安定性の高いフラットハンドル、28C〜35C前後のタイヤで安定性も高く手頃な価格帯、通勤通学からフィットネスまで幅広い用途に対応、初心者にも扱いやすく維持費も抑えられる |
グラベルロード | 舗装路だけでなく、砂利道や林道など多様な路面を走行可能、ロングライドやキャンプツーリングにも最適、ロードバイクよりも車載性があり初心者にも扱いやすい |
e-bike | スタイリッシュなデザイン、街乗りでの快適性、多様なカラーバリエーション、盗難防止機能、スマートフォン連携機能など |
マイクロモビリティ | 電動キックボードなど短距離移動に便利な小型モビリティ、シェアリングサービスも普及 |
ライフスタイルに合わせた自転車選びのススメ
自転車を選ぶ際、重要なのは「どんな目的で、どんな場所を走りたいか」を明確にすることです。毎日の通勤・通学に使いたいのか、週末のサイクリングを楽しみたいのか、あるいは未舗装路を冒険したいのか。目的によって最適な自転車は大きく異なります。
自分に合った自転車を見つけるための5つの質問

自転車を購入する際、消費者はどのように自分に合った自転車を選べば良いのでしょうか?
以下の5つの質問に答えることで、自分にぴったりの自転車が見つかるはずです。

- どんな場所を走りたいですか? (舗装路メイン?未舗装路も?)
- どんな目的で自転車に乗りますか? (通勤・通学?フィットネス?ロングライド?)
- 予算はどれくらいですか? (5万円?10万円?20万円以上?)
- 体力に自信はありますか? (坂道は得意?長距離は?)
- デザインで重視するポイントは? (スポーティ?おしゃれ?)
自転車選びの5つのチェックポイント

1.用途を明確にする
通勤・通学が主目的なら、クロスバイクやe-bikeが最適です。週末の長距離ライドが目的ならロードバイクやグラベルロードも選択肢に。
2.予算の全体像を考える
本体価格だけでなく、ヘルメット、ウェア、メンテナンス費用など関連費用も計算しましょう。
3.試乗は必須
同じモデルでもサイズによって乗り心地は大きく変わります。ご自身に合ったサイズを選びましょう。
4.メンテナンス性を確認
特に初心者は、メンテナンスの難易度を考慮すべきです。例えば、ディスクブレーキは性能は高いですが調整が難しく、リムブレーキの方が初心者には扱いやすい場合があります。業界のトレンドはディスクブレーキですが、走る場所やご自身の走り方に必要か検討することで費用を抑えることができます。
5.将来の拡張性を考える
後からグレードアップしやすい設計になっているか確認しましょう。例えば、フレームのクリアランスが広いグラベルロードバイクなら、後から太いタイヤに交換でき、用途の幅が広がります。自転車競技やレースを目的としない場合、1台でさまざまなカスタマイズが楽しめる自転車を選ぶのも良い選択です。
まとめ|賢い消費者になろう

ロードバイク偏重の自転車業界の実態を知ることで、より賢い消費者になることができます。
自分のニーズに合った自転車を選ぶためには、業界の「売りたいもの」ではなく、自分の「欲しいもの」「必要なもの」に焦点を当てることが重要です。
自転車は、単なる移動手段ではなく、健康増進、環境保全、そして新たなライフスタイルを提案する可能性を秘めています。
ロードバイクが最適な人もいれば、クロスバイク、e-bike、グラベルロードバイクなど、別の選択肢が最適な人もいます。
業界の構造を理解した上で、自分に合った一台を見つけ、自転車ライフを楽しんでください。
それこそが、真の自転車文化の発展につながるのではないかと思います。
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